“スネール”
“スネール”とは?
屋内の水槽でももちろんですが、ベランダビオトープでも水草や飼育容器の壁面に小さなつぶつぶが付着していることがあります。よく見るとそれは小さな巻貝で、“スネール”と呼ばれる生き物であることがわかります。
“スネール”とはカタツムリをはじめとした巻貝を表す英語である“snail”のカナ読みですが、アクアリウムの界隈ではいつの間にか意図せず混入している巻貝を総称して“スネール”と呼ぶようになりました。“スネール”呼ばれる巻貝はいくつもの種類がありますが、共通して“知らぬ間に侵入している”、“気づけば爆発的に繁殖している”という特徴があります。
代表的な“スネール”は以下の4種類です。
- モノアラガイ
- サカマキガイ
- ヒラマキガイ
- カワコザラガイ
その巻貝本当にタニシ?
“スネール”とタニシ
インターネット上には「いつの間にかタニシがいた」「水槽にタニシが自然発生した」「タニシが卵を産んだ」などという投稿がよく見られますがこれらはたいていの場合タニシではなく“スネール”のことです。このように見慣れていない人はタニシと“スネール”を勘違いする人も多いです。
タニシも巻貝なので“snail”であることに変わりないのですが、意図的に飼育されているという点で“スネール”と呼ばれている巻貝とは異なります。
“スネール”とタニシの違い
タニシと“スネール”は以下のような違いから見分けることができます。
- タニシは比較的大きい
- “スネール”とされる巻貝も成長すると数センチになりますが、たいてい見つかるスネールは数ミリから大きくても1センチにも程度です。一方でタニシは生まれてすぐの稚貝でも5mm程あります。
- タニシは右巻き
- タニシは右巻きの貝殻をもちます。タニシと同じく右巻きのスネールもいますが、“スネール”としてよく見られるサカマキガイは逆向きの左巻きの貝殻をもちます。
- タニシは殻に蓋がある
- タニシは貝殻を閉じるための蓋がありますが、“スネール”とされるモノアラガイやサカマキガイ、ヒラマキガイにはありません。
- タニシは卵を産まなない
- タニシは卵を胎内で孵化させてから稚貝を産む卵胎生という繁殖方法をとるので卵を産むことはありません。水草などに透明なゼリー状の卵が付着しているとしたら“スネール”の卵である場合が多いです。
- タニシは殻が透けていない
- “スネール”は殻が透けた色のものが多いですが、タニシの殻は透けていません。ただ、生まれたばかりのタニシは殻が透けているので駆除するときは注意が必要です。
最初に発見される時には“スネール”はよく見えない大きさですがこの時点でタニシではありません。また、形状がわかる大きさになると殻の形状が違うのでよく観察すれば判別することは難しくありません。
タニシを購入するとすでに身ごもっていたタニシの稚貝が後から生まれるということはありますが、タニシをまったく入れたつもりがないのに意図せずして混入する可能性はほとんどないと言えます。タニシを入れていないのでいつの間にか見覚えのない巻貝が棲みついているのであればそれはほぼ確実に“スネール”です。
代表的な“スネール”
ヒラマキガイ
名前の通り円錐状ではなく平面状に巻いた殻を持ちます。世界中に広く分布し、日本に分布する種類もありますが、多くは海外から移入された外来種です。大きさは最大で2cm程になります。
寒天質の袋に入った卵を水草や石などに産み付けます。雌雄同体で通常は他の個体と交尾しますが、自家受精する場合もあります。稚貝は1mmにも満たない小ささですが成体と同じ渦巻き状の殻が特徴的です。
ヒラマキガイの一種であるインドヒラマキガイを品種改良したものは“ラムズホーン”の名前で販売されており、特にアルビノ個体を品種改良により固定化したものは“レッドラムズホーン”としてよくペットショップなどでよく見かけられます。
“スネール”の駆除
“スネール”を駆除するべきか
意図せず侵入した“スネール”でも、とても小さいのでメダカなどの生き物を捕食したり、水草を食い荒らすということはありません。一番の害といえば爆発的に増殖して美観を損なうということぐらいで、ほかに大きな害はありません。
なお、コケやエサの食べ残し、生き物の死骸などのデトリタスも食べてくれますが、とても小さいので食べる量は少なく、それほど大きなメリットもありません。
ビオトープでは水槽と比べると美観への影響もそれほど大きくないので、駆除するかどうかはビオトープを管理している人の好みになります。“スネール”とされる巻貝でもレッドラムズホーンなど水槽内の掃除屋として販売されているものもありますので、“スネール”とみなすかどうかはその人次第です。しかし、もし駆除すると決めたなら数が少ないうちにはじめたほうが良いです。
“スネール”の駆除方法
持ち込まない
一度でも混入してしまうと爆発的に増え、根絶するのが大変なので、そもそも持ち込まないことが一番対策になります。購入した水草をすぐにビオトープに入れず、何日か別の容器で観察してスネールや卵が付着していないかどうかをチェックするのが有効です。水草を入れる前に殺菌する薬剤を使用したり、カルキ抜きしていない水で洗浄したりすると除去できる場合もあります。ただし、水草の種類によっては薬剤やカルキに浸けると悪影響がある場合もあるので必ずそうできるとは限りません。
少し高価ですが特殊な寒天培地で栽培された水草も販売されており、これらはスネールやその卵、虫などが侵入してくる心配がありません。水上葉として栽培された水草も空気中で育成されているのでスネールやその卵が付着していませんが、根本などの水に浸かっている部分があればスネールやその卵が付着していないかチェックする必要があります。
増えにくい環境にする
基本的に巻貝は中性~弱アルカリ性の水質を好みます。岩や砂利などを使っている場合は中性~弱アルカリ性の水質になりやすいため自然と巻貝の生育に適した水質になっています。一方で酸性寄りの水質では貝殻が溶け出してしまうため巻貝は生育しにくくなります。
弱酸性の水質を維持することがスネール対策になります。ただし、他の生き物や水草に影響がないか考える必要がありますし、タニシなどの“スネール”以外の巻貝にも影響しますので注意しなければなりません。
スネールイーターを導入する
スネールイーターを導入することも効果的です。アベニーパファーなどのフグやトーマシー、バジスバジス、巻貝を食べる巻貝であるキラースネールがスネールイーターとしてよく知られています。
多くのスネールイーターは一般的に加温された水槽で飼育されるため水温の変化が大きい屋外のビオトープで飼育するにはあまり適していません。ビオトープに導入する場合は水温が下がってきたら屋内の水槽に移すなど水温の変化に対する対策が必要です。また、スネールイーターは“スネール”とみなされるか否かに関係なく巻貝を食べますし、気性が荒い場合もあるのですでに飼育している生き物との相性にも注意しなければなりません。
効果はそれほど大きくはありませんが、タニシなどのコケを削り取るようにして食べる生き物は小さな“スネール”をコケと一緒に食べる場合もあります。
ビオトープをリセットする
一度混入してしまったスネールを完全に根絶するとなるとビオトープをリセットするしかありません。リセットするということはスネールだけでなく有益な微生物などもすべて死滅してしまい、生物濾過の完成した環境も失われます。元の環境に戻すには最低でも数か月かかります。
リセットしている間に避難させたメダカなどの生き物や水草をビオトープに戻す際にはスネールが混入していないか注意深く見る必要があります。見逃すと手間をかけてリセットした意味がなくなってしまいます。
手作業で取り除く
結局のところ一度混入してしまったスネールを駆除する一番簡単な方法は手作業で見つけ次第取り除いていくことです。スネールを駆除するアイテムとして薬品や捕獲器なども販売されていますが、他の生き物や水草に悪影響を与える可能性もあるので手作業で取り除くのが一番推奨される方法です。スネールはとても小さく、卵も透明で見ずらいので込み入ったレイアウトのビオトープですべて見つけ出して手作業で取り除くのはかなり根気のいる作業になります。
素手かピンセットでつまんで取り除いていくことになります。多くのスネールはそれほど殻が固くないので潰してしまうこともできますが、たくさん潰すと多少なれども水質に影響する可能性があるのでホース等で水ごと吸い出しながら潰すのが良いでしょう。
取り除いたスネールを殺すのはしのびないと思うかもしれませんが、外来種のスネールであっても日本の自然環境で繁殖すると在来種の生息環境に悪影響を与えますし、日本の在来種であっても遺伝子汚染につながりますので生態系を破壊しないためにも、川などへ逃がすことは絶対にやめましょう。